災害時に備えて犬猫の飼い主がしておくべきことは?プロのアドバイスでペットとの防災力をアップ!

「人とペットの防災」とは、備蓄品を揃えることだけではありません。
しつけや健康管理、ご近所付き合いなどペットとの日常生活全般が災害時に大きく関わってきます。
防災力を高めて人とペットの命を守るための備えと心構えについて、ペット防災のプロが回答します。

<監修>奥田順之先生(獣医師/認定NPO法人 人と動物の共生センター理事長)

岐阜大学獣医学課程卒。岐阜大学在学時、殺処分問題を解決する事を目的にした学生団体ドリームボックスを設立し活動。卒業後、社会的合意形成を支援するパブリック・ハーツ株式会社入社。社会教育プログラムの開発、地域活性化イベント企画などを担当。ソーシャルビジネストライアル2011年度優秀賞受賞、東海若手起業塾第4期5期。2012年NPO法人 人と動物の共生センター設立・理事長に就任。同年ドッグ&オーナーズスクールONELife開業。2014年ぎふ動物行動クリニック開業。 2017年、日本で8人目となる、獣医行動診療科認定医取得。2021年NPO法人 全国動物避難所協会設立、理事長に就任。

災害に備えて日頃から準備できることは?

Q. ペット用の備蓄品の準備以外に、災害に備えて愛犬や愛猫のために普段からやっておくことはありますか?

キャリーバッグやクレートに慣らしておく

キャリーバッグやクレートに入ることができないと、避難所には入れません。犬や猫にとって、キャリーバッグが動物病院に行くときだけに使うものになってしまうと、キャリーバッグ=動物病院=注射や検査など嫌な事が起こると関連づけてしまい、キャリーバッグが苦手になってしまうこともあります。災害時、キャリーバッグは移動手段であると同時に、避難先でもキャリーの中で待機することが多くなります。そのため、普段の生活から、居心地のいい空間であることを教えておくことが大切です。

キャリーバッグやクレートを「安心できる場所」にしておくと、災害時だけでなく様々な場面で役立つ。
キャリーバッグ・クレートのトレーニング

毎日の食事タイムを利用して、自然にキャリーバッグに慣らす練習ができます。

  1. 生活空間の中に、扉を開けたキャリーバッグを置いておきます。
  2. キャリーバッグの中にフードを置き、自分から入るのを待ちます。
  3. 扉を開けた状態で、中で落ち着いてマテができるように練習します。
  4. 中で待つことに慣れてきたら、扉を閉めます。

非日常の体験で色々な状況への柔軟性を高める

地震などの災害はいつやってくるかわかりませんが、普段とは少し違うイベント体験をしておくことが、避難生活などの非日常の出来事への柔軟性を高めることにつながります。

犬では、キャンプに出かけてテント泊や車中泊をすることが自宅以外の場所で過ごす練習になりますし、飼い主も電気やガスのない生活をシミュレーションできます。

完全室内飼育の猫は、一度も外出したことがないと外に出ること自体が大きなストレスになります。キャリーバッグに入れて近所を歩いてみたり、車に乗せたりして、外出することに慣らしておきましょう。

家以外の場所でいろいろな経験をしておくことも、災害への備えの一つに。

また、ペットホテルなどに預けて、自宅以外で過ごす練習をしておくこともおすすめです。

いろいろな状況に慣らすことは大切ですが、過剰なストレスをかけないように無理は禁物です。愛犬・愛猫がどういう反応を示すかしっかりと観察して、ストレスのレベルを把握しておきましょう。動物たちが安心できる避難先を事前に考えておけるのがベストです。

Q. 自分の外出中に大きな地震などが起きたら、自宅にいるペットが心配です。どんな備えが必要でしょうか?

室内の防災対策をしっかりと

転倒した家具や割れた食器や窓ガラスでペットがケガをしたり、ドアが開かなくなって一つの部屋に閉じ込められるなど、室内でのさまざまなアクシデントが考えられます。自宅にいるペットの命を守るためには、家具の転倒や物の落下、割れたガラスなどでケガをしないように、日頃から室内の防災対策をしっかり行い、災害に強い部屋づくりをしておくことが大前提です。

飲み水はタイプの違う器で用意

もしも、飼い主が家に戻れなくなったとき、ごはんはあげられなくても水だけは切らさずに飲めるよう、普段から水を何カ所かに分けてたっぷり用意しておきましょう。地震の揺れで水飲み器が倒れたり水がこぼれたりしないよう、こぼれにくい器やボトル給水器など、いくつかの形のものを用意しておくと安心です。

トイレは大きめがおすすめ

トイレが汚れていると、猫にとって大きなストレスになります。猫のトイレの数は『頭数+1個』が基本ですが、大きさについてもできるだけ大きいトイレを用意しましょう。普段から快適であるだけでなく、災害時にすぐに帰宅できず掃除できない場合にも、多少余裕が生まれます。

犬では、排泄は「いつも外」「散歩のときだけ」という習慣になっている子も少なくありませんが、帰宅困難時に排泄を我慢させてしまうというリスクがあります。可能なら、室内でも排泄できるようにしておくと尚良いでしょう。猫同様、大きめのトイレの方が犬も快適です。

緊急時、すぐに帰宅できない場合も想定して、トイレは大きめ・複数個用意するのが理想。

サポートし合える犬友、猫友を近所につくる

災害時は、自分でできることをする「自助」と、みんなで助け合う「共助」が重要です。ペットの様子を確認してもらったり、必要に応じて救助をお願いできるように、お互いにサポートし合える犬友、猫友のネットワークを近所につくっておきましょう。日頃から近隣とよりよい関係を築いておくことが、愛犬・愛猫の命を守ることにつながります。

Q. 災害時にペットと万が一はぐれてしまったときに備えて、どんな対策が必要ですか?

マイクロチップと首輪+迷子札で二重の対策を

地震で開いてしまったドアや窓からペットが飛び出したり、避難する途中ではぐれてしまったりなど、災害時にペットと飼い主が離ればなれになってしまうこともあります。身元のわかるものをペットが身につけていなければ、保護されても飼い主の元に戻ることができません。 一目でわかる身元証明として、日頃から犬も猫も首輪と迷子札を着けておきましょう。スマートフォンなどの電話番号を記しておけば、保護されたときの連絡もスムーズです。ただし、首輪は外れてしまう可能性もあるので、体内に埋め込むマイクロチップの装着と登録を行っておくことも重要です。

窓からの飛び出しを防ぐためにガラスには飛散防止を

地震でガラスが割れた窓からペットが外へ飛び出してしまうケースがよくあります。ガラスが室内に散乱すればケガのもとにもなりますし、在宅避難をする際にも支障を来すため、窓には飛散防止フィルムを貼ってしっかりと対策しましょう。

ペットと一緒にどう避難する?避難の仕方を考えよう

Q. 他の人やペットがたくさんいる避難所に避難することは、現実的に難しい気がします。「同行避難」しなければいけませんか?

「同行避難」と「同伴避難」を正しく理解しよう

大きな災害が起こったとき、環境省のガイドラインではペットとの同行避難を原則としています。「同行避難」とは、ペットと一緒に安全な場所に移動する(避難する)行動のことであり、必ずしも避難所に行くことを意味しているわけではありません。

同行避難に似た言葉で「同伴避難」という言葉があります。「同伴避難」とは、飼い主が避難所でペットを飼養管理する状態を指します。これは決して、飼い主とペットが同室で避難すること(同室同伴避難)を意味するものではありません。ペットの受け入れや、ペットの居場所は避難所ごとに判断が異なります。同伴避難可能な避難所であっても同室であるとは限らず、人とは別のスペースにおいてクレートやケージ内で過ごすというスタイルが一般的です。

動物避難所での避難訓練の様子。
ペットの居場所は避難所によって様々なので、ペットと一緒に避難訓練に参加できると◎

「安全面」と「ストレス」から避難先を考える

ペットとの避難先は、「安全面」と「ペットのストレス」の両面から考えることが大切です。市町村などが設置する指定避難所は安全かもしれませんが、人にとってもペットにとってもストレスの高い場所です。
ストレスの少なさを考えれば、自宅での在宅避難という選択肢もあります。ただし、在宅避難は自宅が危険でないことが大前提です。ハザードマップで地域の安全度を把握し、建物の耐震化と室内の防災対策、ポータブル電源、飲料水、人とペットの生活用品などの備蓄をしっかり行っておきましょう。

「避難所」だけが「避難先」ではない

自宅が危険な場合には避難が必要です。避難先というと、学校や公民館などの指定避難所がまず思い浮かびますが、最寄りの避難所が同伴避難所とは限りません。また、不特定多数の人が集まる避難所よりも、安全な場所に住む親戚や知人の家のほうが人とペットにとってストレスが低い「避難先」になります。平時から話し合い、こうした「避難先」を確保しておくことも重要な防災対策の一つです。自宅が安全な場合は、危険な地域にいる人を迎え入れることもできます。
「避難先」が確保できたら、非常用持ち出し袋を持ってペットと一緒に避難先まで避難する練習をしておくのもよいでしょう。

人もペットも安心して過ごせる避難先を見つけておくことも防災対策の一つ。

Q. キャリーバッグで移動できる猫や小型犬と違って、大型犬はどうやって避難したらよいでしょうか?

安全な避難ルートを事前に確認

大きな地震が発生した後は、道路にがれきやガラス片などが散乱し、足元がとても悪くなっている可能性があります。中型犬や大型犬など、歩いて避難することが想定される場合は、避難場所へ向かうまでのルートを事前に確認しておきます。ガラス片が多くありそうな場所やブロック塀が倒れそうな場所などを避け、愛犬がケガをしないよう安全なルートを探しておきましょう。

Q. 地震、台風、火山噴火など、災害の種類によって避難の仕方に違いはありますか?

ハザードマップで危険度を認識する

災害の起こりやすさは地域によって異なります。各自治体では、自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などを示した「ハザードマップ」を作成しています。ハザードマップは、「洪水」「高潮」「火山」「津波」「土砂災害」「震度被害(ゆれやすさ)」など、災害ごとに分かれています。自分の地域の危険度を確認して準備しておくことが、被害を少しでも軽減させる減災につながります。

風水害は早めの避難が大前提

どんな災害でも、避難が必要な場合はペットだけを家に残すことがないよう「同行避難」が原則です。地震はいつ起こるか予測不能ですが、台風などによって起こる気象災害は事前に予測が可能で、風水害の場合、冠水が始まってからペットを連れて避難するのはかなり困難になります。水害のリスクが高い地域に住んでいる場合は、天気予報などをしっかりと確認し、必要に応じて早めに安全な避難先に移動してください。

災害時にあると便利なおすすめグッズ

水のいらない泡リンスインシャンプー

日常と異なる災害時はペットにとって大きなストレスとなり、体調をくずしがちです。食欲が落ちたり、下痢や血便になることはよくあります。猫はストレスで膀胱炎になりやすく、注意が必要です。

災害時には断水によって水が使えなくなることも多く、下痢でおしりの周りが汚れても洗ったり水で濡らしたタオルで拭いたりできない可能性もあります。ペット用の防災グッズの中に洗い流し不要のシャンプーも準備しておけば、いざというときにペットを清潔に保つことができます。

災害時にすぐに持ち出せるよう、日頃から準備しておきましょう。

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